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#オリジナル小説 #ファンタジー #ホラー 幸福なものたち 幸福な子ども04

mugi

表紙03

04

がたごとと人力車は進む、ファビアンの自転車に乗せてもらった時にはあんなに近くに感じたのにいざ壁を越えるとなると緊張のためか、自転車と人力車の速度が違うだけなのか妙に長く感じた。しばらく進むと目の前に立ちはだかる巨大な壁。石造りのその間に丸太が連なっていてこの壁には来たことがなかったフェリチタは珍しそうに丸太を見つめた。車夫が手を上げると手を上げると開くはずのないそれがぎぎと音を立てて開いていく。

「わ、あ」

開くのが不可能そうな丸太が開いたことと、開かれた先にあった光景にフェリチタが感嘆の声を上げた。壁の外は村とは全く違っていた、立ち並ぶ大きな建築物、煙突から煙がもこもこと上がっていて、村人の人数とは比べものにならないほど沢山の人が歩いている、道は舗装されていて芝生と土しか見たことのないフェリチタには不思議なものに見えた。人力車はすぐに止まり隣に乗っていた偉い人が降りた、フェリチタはそれに倣おうとしたけれど手で静止される。

「貴女はまだ乗っていて、私が同行するのはここまでだから」

到着まで一緒に居るのかと思っていたのになんだか拍子抜けしてしまった。女性は車夫にお疲れ様でした。と礼をして人ごみの中に紛れてしまった。少し寂しさを感じながらもフェリチタは椅子に身を沈めた。車夫は言葉もなく再び人力車を引きはじめた。少し寂しく感じていたフェリチタも町の様子を見ているとそんな気持ちも晴れた。立ち並ぶ家は珍しいものたちばかりだ。洋服をたくさん飾ってある家、パンばかりがおいてある家、野菜ばかりがおいてある家、店という概念を知らないフェリチタはどうしてあんなにもひとつのものを集めているのかしらと興味ばかり。きょろきょろとしていると人力車はひとつの大きな屋敷の前で立ち止まった、立派な門はとても大きくて上まで見上げるとフェリチタの首が痛くなってまうほど。

「到着なの

肩をぐるぐると回している車夫に人力車に乗ったままフェリチタが聞く。

「ああ」

男は簡潔に答えるとフェリチタの体を持ち上げて人力車から降ろし門へと進んでいく。その後ろに続いた。ボタンをおすと大きな鐘の音が響いて、驚きでフェリチタは体を縮こませて、鐘がどこにあったのかきょろきょろと探す。少しすると門の扉からひとりのメイド服を着た歳若い女性が出てくる。けれどフェリチタにはその服が何を意味しているのか理解出来ず、ただ可愛い服だな。と思っただけだった。

「ご苦労様でした。こちらが今回分の報酬になります」

メイドが男に小さな袋を渡すと男はその場で袋を開いて手のひらに入っていたものを出す。金貨が2枚大きな手のひらに収まった。

「おいおい、朝から仕事をさせた割には少なく無いか

「妥当でしょう。嫌でしたら止めていただいて結構です、代わりはいくらでもいます」

「チッ、いいよ。分かったよ。これからもご贔屓に」

袋の中に金貨を戻して、男はフェリチタなど目もくれずに歩いて行ってしまった。会話の内容が理解できないフェリチタはただ首を傾げて男の後ろ姿を見る。

「こっちよ、いらっしゃい」

メイドの声にフェリチタは振り返って彼女を見上げた。男に対して冷たい言葉で返していたのを見て怖い人だと感じたフェリチタは少し身を縮めてしまう。それを見たメイドは先ほどのことを思い出して苦笑した。

「ごめんなさい、怖がらせてしまったわね。大丈夫よ」

フェリチタと同じ視線まで屈んでメイドはフェリチタに微笑みかけた、フェリチタの体がから緊張が幾分か解けた。

「長旅で疲れたでしょうお風呂に入ってぴかぴかにしましょ」

お風呂は知っている、暖かい水が出てくる魔法の場所だ。村にはなかったが、幸福な子どものために作られた魔法の建物にはそれがあった。幸福な子どもとその家族しか入ることを許されていない家だったから他の子どもたちと共有することは出来なかったが、フェリチタはお風呂が好きだ。嬉しくて素直に頷くとメイドの後ろに続いた。建物の中に入っても驚きの連続だった、まず床がふわふわと何か柔らかいものが敷かれている。足場が安定しない感じであまり好きにはなれそうにないが雲の上を歩いている感覚というのはこういうものなのかなと思った。通された部屋はかわいいもので埋め尽くされていた。ピンクの壁、白いベッドにピンクの布団、天蓋までついている。ぬいぐるみまで飾ってあって、かわいらしいそれを抱きしめたくなったが人力車に揺られて埃がついてしまっている身でははばかられた。手に大切に持っていたものをテーブルの上においていいというので、壊さないようにそっとテーブルの上においてワンピースは広げた。こうしてちゃんと見てみるとやっぱりアンナはすごいなあと関心する、道中に洋服がたくさん飾ってあった家があったからきっとその人は洋服を作る人なのだろう、その人に裁縫を教えてもらってアンナにお返しするのもいいかもしれない。

「こっちよ」

メイドの声がかかったので、フェリチタは彼女に着いてく向かった先は風呂場だった、部屋にもうひとつの部屋があるなんてすごい、と素直に関心した。バスタブにはすでに湯が張られていて手を伸ばして浸すと丁度いい温度だった。メイドがフェリチタの服を脱がしていく、小さなころは母親に手伝ってもらっていたが今ではひとりで出来る。子ども扱いされたことにちょっとむくれながらも、フェリチタはバスタブの中に体を沈めた。

「はふぅ」

気の抜けた声が出て、メイドがくすりと笑った。お風呂はいつもおかあさんと一緒に入っている、この人も一緒に入るのかなと彼女を見上げたら、メイドの手にはスポンジがあった。不思議に思っていると、彼女はボディソープを泡立ててフェリチタの腕を取る。

「何をするの

「ぴかぴかに洗うのよ」

数分後。フェリチタの体はもこもこの泡に包まれて、メイドの手によりごしごしと洗われた。それはもうごしごしと、じゃがいもを洗うみたいに、にんじんを洗うみたいに、ごぼうを洗うみたいに、何度も私は野菜じゃないのよと伝えたけれど、メイドはにっこりと笑って知ってるわ。と答えるばかりだった。風呂を出てぐったりとしたまま髪をドライヤーで乾かされる。見たことのないものに驚くよりも今は疲れが強くて驚いている元気もない。体はぽかぽかと暖かいのに、村にいた時には好きだったのに、風呂嫌いになりそう。せっかくなので早速アンナの作ってくれたワンピースが着たいなとワンピースを取に行こうとしたけれど、メイドに制される。

「今らからここのご主人様に紹介するの、だからうんと可愛い服を着ないと」

アンナの作ってくれた洋服だって十分に可愛いのに、とフェリチタは少し落ち込んだがあまりわがままも言っていられないとメイドが用意してくれた服に袖を通すことにする。なんだか重たい服だった、裾の部分にはいくつものレースがあしらってあり、胸元には真っ赤な宝石がひとつ。髪も丁寧にとかされて綺麗に結わえられた。靴も新しいものを用意されて真っ赤な靴に足を通す。少し窮屈だったが、歩けないほどではない。メイドがフェリチタの前に来て満足そうに頷いた。

「うん、とても可愛くなったわ。いらっしゃい」

手を引かれるままに、銀色の板へと近づく、何かと首を傾げて銀色の板にお姫様とメイドが映っていた。

「すごい、お姫様が映ってる

フェリチタが動くと板の中のお姫様も同じ動きをした。不思議に思って首を傾げたり、手を上げてみたりすると同じ動きをする。

「真似っこしてる」

くるくると回ってみる、同じ動きにくすくすと笑う。

「これはね、鏡っていって、あなたが映っているのよ。水溜りに姿が映るでしょうあれと同じ」

フェリチタは目を丸くして驚く、やっぱりここは魔法の国なんだ。風呂の入り方は好きになれないけれど、お姫様に変身できる。

「すごい、すごい

疲れていたのも忘れてぴょん ぴょんと飛び跳ねる。

「さ、ご主人様に会いに行きましょう」

「うん」

ご主人様というのはどういうものなのかフェリチタにはよく分からないけれどメイドの言葉にフェリチタは頷いた。扉を抜けて、大きな家の中を付いて回る。何処もかしこも気になるものばかりで視線が逸れてしまい前方を歩くメイドにぶつかりそうにながらも一歩開けてを繰り返す。

「さ、着いたわ」

扉の前で立ち止まった彼女に今度こそぶつかった。メイドは気にした様子もなく軽くノックをした後返事も聞かずに扉を開く、呆気なく開かれるそれにフェリチタは緊張する間も無くこの家の主人と対面することになった。

「返事をしてから開けろと何度も言っているだろう」

眉を潜めて此方を向いたのはフェリチタの父親と同じくらいの男だった。

「それよりも、ファームから到着しました」

メイドは影に隠れてしまっていたフェリチタを前に出す。瞬きをして背の高い男を見上げる。

「ほお」

男は興味深そうにフェリチタに近づくいてしゃがむと彼女の腕をとって、軽く揉んだ。

「こ、こんにちは」

挨拶もなしにいきなり触られるとは思わずフェリチタは少したじろぐ。

「んうん。ファームの子どもというのはこんなものかい

フェリチタの言葉に軽く頷いて、男はメイドを見上げた。

「要望通りですよ」

「そうか」

男はフェリチタの腕をもう一度指で押し、何か考える素振りを見せてから手を離した。

「明日は頼む」

メイドはその言葉に頷いた。交わされる言葉はフェリチタが理解出来ないものであったし、ご主人様という男と会話らしい会話は出来なかったが、ここは「偉い人」が暮らしている世界で、その中でももっと偉い人なのだから村から出てきたばかりのフェリチタがあのような対応を受けることになっても仕方のないことなのかもしれないとひとり納得する。男の部屋から出たフェリチタはメイドに連れられて初めの部屋へと戻る。

「もう疲れたでしょう今日はもうお休み」

「このお家を探険したいわ。扉がいっぱいあったしどんな魔法があるのか見たい」

疲れてはいるが好奇心が勝った、今にも飛び出して行きたくてうずうずしている。

「ええ。でもそれはまた明日。とっておきの葡萄ジュースがあるの、それをあげるからそれを飲んで今日はお休み」

「はぁい」

フェリチタは不満を感じながらも頷いて、ベッドの上に座って足をぶらぶらさせる。少ししてメイドはジュースを持ってくる。とても美味い、飲んだことのない風味がする。

「おいしいおかわり」

一気に飲み干してコップを差し出すが、メイドは首を横にふるった。

「一杯だけよ」

「むー」

それならばもっと味わって飲めばよかったとふてくされながら横になる。横になると睡魔が襲ってきた、歯磨きをしないとおかあさんに怒られる。と思いながらも、瞼はどんどん下がっていく。お姫様の洋服にお城みたいなおうち、おいしいジュース。この魔法の家に他にどんなものがあるんだろう、今日この日のことですらみんなに話すことがたくさんある。

「しあわせだなあ」

微睡みに身を任せながらもフェリチタは呟いた。

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Posted bymugi

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