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#オリジナル小説 #ファンタジー #ホラー 幸福なものたち 幸福な子ども03

mugi

表紙03

03

とある日の正午。村には相応しくない大きな音が響く、大地を大きな車輪をがたごと響かせてそれはやって来る。人力車だ。壁の外から人がやって来た。彼らが何時やって来るかを聞かされていない村人だが彼らを前にして取るべき行動は早い。膝をついて頭を下げる。土ぼこりを巻き上げて人力車は進む。彼らは見送りながら察した、幸福な子どもを引き取りにきたのだと。人力車は村の中央で立ち止まった。昼食を済ませた人々の大半はまだ食事をする屋根の下に留まって各々に過ごしていたが、それをみた村人の反応は早く今行っていたこと全てを投げ出して膝をつき頭を下げる。人力車に座る人物の顔は日傘で影になってしまっていてよく分からない。

「顔をあげなさい」

この凛とした一言で皆顔をあげた。立ち上がるものはいない。

「幸福な子どもを此処へ」

ああ。この日がやって来たのだ。

アンナが木陰で針仕事をしているその上で、子どもたちと共に木登りをして遊んでいたフェリチタに迎えがやって来たと知らされた彼女の表情は、嬉しさと緊張の混じった顔をして少し強張っていた。他の子ども達も一緒に偉い人が待つ場所へと赴くと、人力車に乗った人が引いていた車夫の手を借りながら降りてきた、皆は頭を垂れたまま、フェリチタは立ったまま前を見据えた。幸福な子どもは彼らと同じ目線に立つことを許されている。日の明りのしたに降り立ったその人はとても美しい人だった、すらりとした体に働くことを知らないような傷ひとつない手。壁の外の人達はこんなにも美しい人達ばかりなのだろうかとフェリチタは見惚れた。

「あなたを迎えにきました」

その声で現実に帰ってくる。

「はい」

緊張した面持ちでフェリチタは頷いた。

「生活は保障されています。ですが、持って行くことも可能です」

フェリチタは何か持っていくものがあったかと思案したが、そもそも村にはそんなにものというものがない。大好きな父親と母親がいて、友達と遊んで、畑を手伝って、フェリチタにはそれが全てだ。

「フェリチタに持っていって欲しいものがあるの」

偉い人の許可なくアンナが立ち上がった、彼女の隣にいたアンナの父親は無礼だぞ。と嗜めて彼女に頭を下げるように促したが、偉い人がそれを手で遮った。

「許可する」

アンナは手にしっかりと握ったままだった布を持ってフェリチタのところへ歩いていく。青空のしたによく似合う緑色のその布はアンナが合間を見てはちくちくと縫っていたもの。アンナはフェリチタの前でそれを広げてみせる。シンプルな、ワンピース。装飾もなにも施されていないもの、けれど縫い目は丁寧で、アンナがひと針ずつ丁寧に縫ったことが伺える。

「いつでも戻ってこられることは知っているけれど、でも何か持っていって欲しいって作ったの」

自分へのプレゼントだとは思っていなかったフェリチタは胸の中から温かいものが湧き上がってくるのを感じた。

「ありがとう」

渡されたそれを大切そうに両手で抱きしめる、嬉しくてもっと言葉を伝えたいのにそれ以上の言葉が出てこない。胸がつまる。

「オレからだってある女にはこういうのがいいって母ちゃんに教えてもらった

それを見て割り込んできたのはイアンだった。ちょっと待っていろと飛び出して建物の影に消える、すぐに戻ってきてその手に握られていたのは花で編まれた冠だった。少し歪で歪んでいるが一生懸命に作ったことは伝わってきた。フェリチタの頭の上にぽんと乗せられる。イアンから贈り物をされるとは思っていなかったフェリチタは目を丸くしてありがとう。と伝える。

「ぼ、僕だって僕だってある!!

そう言ってポケットから少しくたびれた四葉のクローバーを出してきたのはルーカス。

「なんだそれくったくたのただの草じゃないか

イアンがそれを取り上げようと手を伸ばす。

「草じゃないよ幸運のお守りだもん!!

それから逃れようと後ろにのけぞって倒れそうになるのをミュゼが支え、イアンの手から四葉のクローバーを取る。

「ミュゼ」「ミュゼ

イアンとルーカスの台詞が被る、イアンはどうしてミュゼがそこにいるのか驚いた様子で、ルーカスはミュゼまでいじわるするのと涙目だ。

「お守りの袋を作ったのだけれど肝心の中身がなくて困っていたの。幸運のお守りがお守りの袋に入っていれば最高じゃない

そういってウィンクをしてみせる、ルーカスは嬉しそうにうん。と頷いて、イアンはつまらなそうに顔を顰めた。

「なぁにが幸運のお守りだよただの草のくせに

「草じゃない、草じゃないよ草じゃない

「ふたりともいい加減にしろ偉い人がいるんだぞ!!

収まりそうのないふたりをフランクが怒鳴りつけるとふたりはぴしゃりと大人しくなった。偉い人が前にいるからということでなく、草むしりの刑のことを思い出しての行動だった。

「ふふ、あは、あははははははっ、あははははっ」

突然フェリチタが笑い出して、村の人達の視線はフェリチタに集まる。

「なんだか、緊張していたのが馬鹿みたい。イアンもルーカスもアンナも、みんな、みんな、ありがとう。わたし、帰ってくるよ、必ず帰ってくるよ」

目に涙を浮かべてフェリチタは笑う、今生の別れというわけではない、いつでも帰ってこられる。緊張する必要だって、悲しむ必要だってない。それを見た子どもたちは胸がいっぱいになって、フェリチタを抱きしめになだれ込む。大人たちは顔を見合わせて笑いあった。

「あなた方も話があるのでしょう」

偉い人の視線がフェリチタの両親に向かう、立つことを許されてフェリチタのところへと歩いていく、子どもたちはフェリチタからゆっくりと離れた。

「おとうさん、おかあさん」

「向こうに行っても、ちゃんと寝る前は歯磨きするんだぞ」

「泡が目に入るからってシャンプーの時に暴れたりしちゃ駄目よ

「もう、分かってるよ」

ぷっくりと頬を膨らませる。

「それから、ちゃんとご飯を食べること。甘いものばかり食べてご飯が食べられないなんてことしたら失礼だから」

「食べる前の手洗いだって忘れたら駄目だ」

「わがままばかり言って困らせないようね」

「珍しいからって迷子になるんじゃないぞ」

「おなかを出して寝ないようにね」

「それから、それから」

「もうもう、分かってるよ。おとうさん、おかあさん」

このままふたりに喋られていたらずっと心配事を話していそうでフェリチタは苦笑しながらふたりの話を止めた。

「それから、いつでも帰ってきなさい」

ぴたりとフェリチタの動きが一瞬止まって、耐え切れなくて涙が溢れた。

「うん、うん」

ふたりにも笑顔を見せて両親はフェリチタを抱きしめた。

頭に花冠を乗せて、両手にお守りとワンピースを抱きしめて、フェリチタは人力車に乗り込む。日傘の下は幾分か気温が低く感じた。がたごとと慣れない振動で進む人力車に乗りながら、フェリチタも村人も見えなくなるまで、ずっと、ずっと、手を振っていた。

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Posted bymugi

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